瞳にまつわるエトセトラ
全ての基礎の下地編


「瞳にまつわるエトセトラ」始めます〜。
このコラムでは、 瞳の塗り、というか顔全体の表情のつくりかたを書いてみます。私の塗装法は「夏服のアスカ エアーブラシで瞳を塗ろう!編」に既に書きました。すごく好評で、たくさんの方が参考にして下さったみたいです。なので、ここらでひとつVer.2を出しとこうかなと。以前のものより「上級編」って感じでいきます。

もちろん言うまでもありませんが、これから説明するのは「私の」やり方。いろいろなやり方があるだろうし、それが当然と思います。
私のは
「1600×1200ピクセルのどアップ画像で、アラを見せない」
「一生懸命頑張ってつくったヨ!風に感じさせない」
「手作業でつくったように思わせない」
ために限界ギリギリまで精度を求める方法。基礎的な技術が結構必要になるし、何よりめんどくさいです。真似しろとは絶対言いません。が、何か参考になるようなことがあれば良いかなと思っています。

はじめての方・初心者の方はまず「夏服のアスカ製作記」、特に
私の肌色塗装法編
エアーブラシで瞳を塗ろう!編
に先に目を通していただいて、それからこっちを読んで下さい。基本的な工程は変わってませんから、説明を省いてる部分も多いですので。よろしくです。

んで、今回のサンプルはマックスファクトリーのペイオース。超美人さんですので、色塗りもやる気満々でした。


最終工程終了後の顔パーツ。う〜ん、お美しい・・・。ここまで仕上げるのにどんな風に作業したか、以下だらだらと書いていきます。


(1)下地作り

これについてはいろいろやり方がありますが、最近私は全くサフを使ってません。

1)瞬間接着剤+アルテコの粉で気泡処理
2)プライマーを吹く
3)グロスホワイトを吹く
4)グロスホワイトを極小のキズ・気泡に筆塗り
5)極細目のペーパーで筆塗りした部分をならす
6)必要であれば、もう一回ホワイト吹き

こういう工程でやってます。
サフを使わないのは「使う必要がない」から。表面処理はパテ類を使わないので、レジン地と色の差がほとんどありません。隠蔽力の強い塗料を使う必要性がないのです。
また、出来る限り表面キレイに処理しますので、サフ吹き前の段階で既にキズ・気泡などはほとんどありません。サフの「キズ埋め効果」は私にはいりません。そうなってくると、残るはデメリット(塗膜が厚い・粒子が大きい)ばかり。プライマー吹いておけば十分です。

但し、幾ら頑張っても「一発で完璧に」表面処理は出来ません。プライマーはクリアーですので、表面状態を確認しにくいです。なので、プライマー吹きのあと、軽くホワイト(Mr.カラー1番)を吹いてチェックします。この段階でいくつかは極小気泡などが見つかるはず。「極小」なのでパテや瞬着を使って埋める必要は無し。エアーブラシのニードルを絞って、その部分だけ「スポット厚吹き」。それで8割がた埋まります。それでも埋まらなければ、同じホワイトをチョンと筆塗り。十分乾燥してからその部分をペーパーがけしてならしてやります。それで表面が荒れたと感じるのであれば(その後グロス塗装する場合などです)もう一回ホワイト吹いて出来上がり。

以上は「塗膜を厚くしたくない」「表面状態を完璧にしたい」この二つを両立するための方法です。きちんとやれば相当表面ピカピカになります。しかも、手に入りやすい塗料であることも重要。 例えばフィニッシャーズのファンデーションホワイトなど、良い下地塗料は探せばあるようですが、ちょっと手に入りにくいし、手に入りにくいものを仕事で使うのはちょっと・・・ってことで、私はこんな方法でやってます。


(2)クリアーオレンジ吹き

肌塗装に入ります。これも以前とほとんど違いませんので「私の肌色塗装法編」をまず読んで下さい。


額上部・眼窩・耳まわり・顎まわりにグラデーションを付けるべくクリアーオレンジを吹きました。

ところで・・・ぶっちゃけた話、私は顔にグラデーションかける必要は全く感じてません。原型師さんたちが気合いを入れて造形した部分ですので、大概の場合ベタ塗りでちゃんと陰影がつきます。ヘタにグラデかけると、その陰影を邪魔しかねません。上の写真を見てもらうと解りますよね?良い造形には「作為」は不要。
でも、全くグラデかけないと、胴体部分の肌と雰囲気が違ってしまいます。 それはマズイので、かる〜くだけに留めて誤魔化すことにしています。


(3)肌色吹き


クリアーオレンジの上から肌色を吹きました。今回のペイオースは肌の露出が多く、また服が黒と茶色ですので、肌色の彩度はいつもより高めにしました。キャラクターフレッシュ(1)に蛍光レッド・蛍光オレンジなどをごく少量混ぜてます。女神らしい上品さに加え、色っぽさ・艶っぽさを出すことを狙いました。

この段階でも額・鼻・頬上部(所謂Tゾーン・Uゾーン)は薄く吹き、グラデかけます。もちろん上で書いたように、ごくごく微かに。自然に出来た陰影と違いが解らないくらいのレベルです。このあたりの加減は人それぞれ。お好みで。

この段階での注意。 最終的には肌はツヤ消しにします。ツヤ消し材を混ぜたスーパークリアーを上がけするのですが、ご存じの通り、これをやると多少色味が変わります。どれぐらい変わるのか計算した上で肌色を調合しましょう。
全くの個人的な感覚ですが、全体的には白っぽくなります。これはツヤ消し剤の粒子が白いので、当然。加えて、クリアーオレンジは赤みが強くなり、キャラフレはピンクの比率が高まるように感じています。
微かに「黄色味・オレンジ味が強いかな?」と感じるぐらいで、結果としてベストなピンク具合になると「個人的な感覚では」思っています。


(4)白目入れ


顔面をマスクし、髪を吹いた後、エナメルのホワイトで白目を筆塗りしました。

全体が真っ白になっている下地段階で、眼球部分をマスキングし、肌色を吹いてマスクを剥がす、という方法ももちろんアリです。でも私はやりません。「境界線がビリつき、塗膜の段差が出来る」から。

どんなにきちんとマスキングしても塗膜を薄くしても、これは避けられません。そして瞳はどアップで見ることが多いので、他の部分では気にならないレベルの、ほんのちょっとのビリつきが「目立つ」のです。 塗り分けに関しては筆でやった方が絶対キレイ。
また、マスキングのビリつき・段差を修正するため、普通だったら極細のペーパーがけをするのですが、こと肌に関しては、それは不可です。塗膜が薄いので、ペーパーかけるとその部分だけ色が変わってしまいます。筆によるリタッチも同様。

当然筆塗りだとムラが出来ます。「筆塗りが上手い」ことがこの方法の前提。でも少々のムラならOK。むしろ積極的に利用することを考えましょう。
白は隠蔽力が弱いので、薄くムラなく塗ろうとしても、どうしても微かに下の肌色が見えます。が、真っ白にならなくても良いのです。周囲と自然な感じで馴染ませる・ハイライトと差をつける、などの意図です。

尚、上の写真、目のアップを見てもらうと、下側ちょっとはみ出ています。ここは下睫毛を描く予定なので気にしなくてOK。ラインを入れない左右サイドがびしっと決まっていれば問題なし。


(5)クリアーコート


ここまで来たら「色を留め」ておきます。全体にスーパークリアー(グロス)をかけてます。今後アイライン等描きこむのですが、その際白目と混じってしまわないように。ミスった時のふき取りを楽にするためでもあります。

「エナメルシンナーはラッカーを侵さない」というのは、ほとんど常識のように言われていますね。でも、これはウソ。ほんの少しですが、ラッカー塗膜を侵します。普通なら全く気にならないレベルですが、塗膜が激薄で色味のほんの微かな変化がとても目立つ肌色では、致命傷になることもあり得ます(実際ありました)。万が一に備えて、肌色の上にクリア層をつくり、これに備えておきます。

また、以前はグロスではなくこの段階でツヤ消しにしていましたが、今ではクリアーでやってます。その理由は、表面がグロスの方が筆塗りしやすいから。そしてもうひとつ。アイライン書きでミスタッチした部分をカッターで削り落とすから。

ミスタッチを修正するのには、いくつかやり方があります。一番解りやすいのは、上記のエナメルシンナーでふき取ること。でも全面的にふき取る必要があるほど大きな失敗は、まずしません。ほんの少しのはみ出しは、ツマヨウジの先端を尖らせたものでこそぎ落とします。このとき下地がグロスでピカピカの方が、キレイに落とせます。

そして、ツマヨウジの先端では「太すぎる」ような、超シビアな修正にはカッターナイフの刃を使います。睫毛の先端などですね。ナイフの刃でこそぐ場合、一歩間違うと下地の肌色まで削ってしまう危険性があります。そのためにも、ある程度塗膜を厚くしておいて、万が一に備えます。
ウチにある一番鋭利な道具は、カッターの刃。筆で描いたまんまより、鋭利な刃物で削ぎ落とした方がシャープなラインが出せます。だからそれをやるために、準備としてオーバーコートしておくわけ。

この削ぎ落としを成功させる一番重要なキーは「下地」。半ツヤのサフを使わず、グロスホワイトを使うのは、表面をツルツルピカピカにしておいて仕事をやりやすくするためでもあります。また、例えば塗膜にホコリがついているだけで、ナイフの刃はそれに引っ掛かって「ガリッ!」とやっちまいます。ホコリは絶対に厳禁。

美しい下地をつくるのは、思い通りにラインを描き、美しい表情をつくる為の「全ての基礎」です。