瞳にまつわるエトセトラ
ここが勝負の筆塗り編


前回までで下地が出来ました。今回は筆塗りで描きを入れます。
さあ、ここからが勝負です!集中!


(1)女神マーク・口


額とほっぺの女神マークを筆塗り。
前回も書きましたが、写真では濃いめの紺色に見えますが、ツヤ消しコートすると色味が変わり、もっと薄く・鮮やかになるはず。変化を予測しましょう。
大まかに・一気に筆塗りし、失敗したら(前回書いたように)ツマヨウジやカッターナイフで削ぎ落としを繰り返し、ビシッと決めてやります。

尚、 この女神マーク、このペイ様では凸モールドでした。実は、この筆塗りを楽に・美しく決めるために、下準備としてペーパーがけして凸モールドを見えなくなるギリギリまで落としています。段差が高いと、どうしても塗りの邪魔になりますから。完全に落としていちから描くのはめんどくさいので、ガイドとして機能するくらい微かには残しておきましたが。

ついでに言うと、眉毛も、黒目ラインも落としてます。 これは私のポリシーですが
「原型師のつくったライン(=表情)は極力尊重する。そしてその上で、無視する。」
目線も眉毛も、仮に作例と全く同じにするとしても、自分で描きたいんです・・・。そのためにガイドとして邪魔にならない程度にだけ残し、削り落とします。

この段階で口にも赤を入れておきました。このライン、かなり重要です。特に末端部分。ほんの0.1mm上げ下げするだけで笑っているようにも、怒っているようにも見えます。「笑っている」のでも、頬笑みなのか、不敵にニヤっとなのか、ここで決まります。
更に、末端を太く描くと口元がだらしなくなります。ヨダレたれそうで、ちょっとバカっぽい。ただ単にスミ流しするだけでなく、ナイフを入れて造形をいじることも含め十分気を遣いましょう。

それと、口紅をどうするか。いつも悩むところなのですが、美少女フィギュアの場合、人間と同じような感覚でお化粧するとケバく見えることが多いようです。今回も最終段階でエナメルクリアーを薄く乗せるだけにすることに。個人的なシュミです。


(2)瞳ライン


鉛筆でアタリをとって左右の目線をあわせ、筆塗りします。
目線あわせには細心の注意を払うべきですが、上下睫毛ラインが入っていない段階では、イマイチよくわかりません。とりあえずズバッと描いてしまい、後から微調整しましょう。

今回はつり目気味のシャープな瞳にしたいです。この段階ではあらあらですが、その意図はよく汲み取れるでしょう?眼がしらのラインが細く、白目からはみ出してます。そこから直線的に立ち上がり、目尻に向かうに従って線が太くなります。ペイ様の特徴でもある三角形の目尻にしてます。

ついでに、白目の上側にクリアーブルーでシャドウ入れておきました。これによって彫りの深い顔立ちに、また雰囲気に翳りをつけられます。


(3)アラで描き上がり


両目ともあらかたのラインを描きました。
この段階で一度、目線チェック。
私の方法は・・・
・少し休憩し時間をとって、改めて新鮮な目で見てみる
・デジカメで撮影し、モニタ上で見てみる
・鏡に映し、左右反転した状態で見てみる
とにかく、根をつめるとわかるものもわからなくなります。普通に見るのと違う方法で、気持ちを改め、第三者の目で見るようにしてみましょう。


(4)微調整・睫毛描き


ここから、こまかい描き&アラで描いた線の修正に入ります。
前述のように、筆で描く→ミスったらカッターで削る→削りすぎたらまた描く、の繰り返し。ひたすら集中。努力と根気。(3)までの段階と、どこをどのように修正したか、写真で確認してください。

目尻の睫毛は、今回は横に流してみました。ペイ様の特徴でもありますし「おとなの女性」にしたかったので。 これを立てると、溌剌とした感じになると思います。睫毛の本数も同様、細くたくさん描けば繊細でやさしい感じになるし、一本で太めに描けば元気のいい女のコになるでしょう。そして、睫毛を描かなければ、くりっとしたまんまる眼で子供っぽく、無邪気な感じになると思います。この辺はキャラの特徴と、製作者のお好みで。後で修正が効くような工程踏んでるのですから、失敗を恐れずいろいろ試してみると良いと思います。

尚、ここでちょっと。例えば下睫毛など、ハッキリ言ってめっちゃこまかいです。肉眼で確認できるか、微妙なところ。ここまでする必要があるのかどうか、疑問な部分もあるかと・・・。
でも、私の考えは、肉眼ではっきり認識できなくても、太いラインで一本で描くのと、細いラインの集合として描くのとでは、「何となくだけど、何かが違う」とはわかるもの、そう思っています。睫毛の末端も、単に筆で描くのと、削り落としで頂点をシャープにするのと、ほとんど違わない。でも、絶対違う。 その「何かが違う」の積み重ねで、全体の雰囲気がつくられていくものだと考えています。


(5)眉毛描き


眉毛を一気にひいてやります。精神統一し、フィーリングで一発決め。

アイラインの描きとあわせ、この眉毛のライン取りで表情が決まります。山型に弧を描けば笑いの表情だし、まっすぐめに描けば意志の強さを表せるでしょう。太さについても同じ。眉間側にポイントをもってくれば「眼ぢから」が強くなりますし、両眉の間隔をあければ、ぱぁっと明るい笑顔になります。

今回、ちょっと変化を付けるべく、眉間側スタートラインに「遊び」を入れてます。 こういう偶然的に出来たものは上手く利用してやればよいのでは。

また、両眉を揃えても良いですが、右と左でちょっと変化を付けても面白い。見る方向で表情が違って見えると、良い感じでしょ?概して、顔のつくり・描きは、無理して左右対称にする必要はないと思います。その方が表情が豊か。人間味が出ます。(でも目線が左右で違うのはダメですよ。)

眉毛描き終えたら、二重ラインも入れてやりましょう。 今回は「一重まぶた風」にしたかったので、短く細く、ちょっとだけ。今回のペイ様、モールドがしっかりしていたし、描かなくても良かったかも。


(6)目線チェック


筆塗り終了です。ここまでで、最終チェック。前髪パーツもつけてみて、目線など最終決定します。前髪をつけたときとつけないときで、表情が違って見える場合もあります。極力、完成状態に近い感じで見てみましょう。

(5)の段階で気付かれたかもしれませんが、左右の目尻、睫毛の長さが違います。 それは、前髪を付けたときの「隠れ度」の差を勘案したから。あと注意したのは、決め角度から見たとき、額から一本垂れてる髪の毛が瞳にどのぐらいの感じでかかるのか。ここは絶対に妥協出来ないポイント。微調整を繰り返します。


(7)ツヤ消しコート


ここまでで、また「色留め」をします。
もう筆塗りは終わったので、ツヤ消しオーバーコート。普通は全面にかけるのですが、今回はちょっと変わったことしてみました。

練り消しゴムを使い、白目が半分くらい隠れる状態でマスキング、その上からツヤ消しクリアーをかけました。それによって目頭・目尻付近の白目はツヤ消しに、眼球に近い部分はツヤありになります。練り消しゴムを表面にぴったりとくっつけてはいないので、境界線はぼやけます。ツヤ消しの肌と、ばりばりグロスの黒目と、両方と馴染ませるための処理。写真では全くわかりませんが、「何かが違う」感じにはなってます。ちょっとしたこだわり。


(8)筆塗りパート終了


こんな感じになりました。
ツヤ消しにしたことで、雰囲気がガラッと変わりましたね。やわらかく、しっとりした感じです。色味も変化したのが解ると思います。

上の写真で一目瞭然ですが、この段階で既に表情は決定してます。十分、ペイ様らしい感じに仕上がったと思います。表情を決めるのは黒目ではなくて、ライン取りだということがおわかりいただけるでしょう。

瞳をエアーブラシで吹くとはいえ、勝負はやはり「筆塗り」。ここまでで、勝つか負けるかは決まってしまいますので、気合い入れましょう。